Web記事 備忘録的まとめ:大阪都構想はなぜ否決されたのか?をデータジャーナリズムする | マーケティングメトリックス研究所/MARKETING METRICS Lab.


データで振り返る①「大阪南北格差」は本当か? データで振り返る②「シルバー民主主義の勝利」は本当か? 高齢者の勝利と断定するのは違和感を覚えます。なぜなら分母の記載が無いからです。

2016/09/28 22:39


データで振り返る①「大阪南北格差」は本当か? データで振り返る②「シルバー民主主義の勝利」は本当か? 高齢者の勝利と断定するのは違和感を覚えます。なぜなら分母の記載が無いからです。 - ujigislab のコメント / はてなブックマーク

 

 

大阪都構想の是非を問う選挙(大阪市特別区設置住民投票のこと、以降は都構想選挙)をデータジャーナリズムする

 

大阪都構想の調査・分析に挑むにあたり、2つのことを明らかにしています。

1つは、データを使って何が起きたのかを「見て解る」ようにしたいと考えます。難しい論評を使わずとも、グラフだけで何が起きたかを表現する。それがデータを使う醍醐味です。

もう1つは、データを分析して大阪都構想が否決された理由を探したいと考えます。数字で物事を捉えて、論理的に考える。それが分析の醍醐味です。

 

2015年5月17日に行われた都構想選挙は、

当日の有権者数210万4076人中、投票したのは140万429人、投票率は66.83%と極めて高く、市長選挙に限定して言えば昭和38年(1963年)の68.14%まで遡る必要があり、ここ数十年の投票率の低さを考えると、関心の高さが伺えます。

結果としては反対派が僅差で勝利を収めましたが、その差は10,741票で総得票数の0.76%と薄氷の勝利

区単位での票数を見ると、 

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 大阪市24区中、反対派の割合は41%から56%と幅広く、特定のデモグラフィックによる影響が伺えます。南北で意見が分断されているように見えるので、これを「大阪南北格差」「大阪南北戦争と揶揄した評論家もいました。

データで振り返る①「大阪南北格差」は本当か?

各区単位で見る想定平均年収は以下の図の通りです。

各区の平均年収を五段階で色塗り。
各区の平均年収を五段階で色塗り。

合わせて、平均年収1000万以上の世帯が、全世帯を占める割合を区単位でマッピングしてみました。

各区の高額年収世帯割合を五段階で色塗り。
各区の高額年収世帯割合を五段階で色塗り。

さて、これのどこが南北所得格差なのでしょうか。というか「キタ」所得高いですか?市内と比較しても普通ですよね。

データで振り返る②「シルバー民主主義の勝利」は本当か?

出口調査結果を見て高齢者の勝利と断定するのは違和感を覚えます。なぜなら分母の記載が無いからです。

そこで、この出口投票の結果と、大阪市選挙管理委員会が公表している年齢別投票行動の結果を照らし合わせてみました。

まず世代別の有権者数と投票率、実際の投票者数をグラフでまとめました。

ブルーは男性、オレンジは女性の投票者数(左軸)。折れ線は投票率(右軸)。
ブルーは男性、オレンジは女性の投票者数(左軸)。折れ線は投票率(右軸)。

この投票者数を、出口調査の結果にマッピングしましょう。その結果は以下の通りです。

出口調査の結果と市選管発表数字を掛け合わせ。
出口調査の結果と市選管発表数字を掛け合わせ。 

賛成派が約10万票近い差を付けて勝利してしまいました。…あれ?って感じです。

何のデモグラフィックが賛成・反対を際立たせたのか?

大阪都構想に関する主な論評に新たな「解釈」を述べたところで、じゃあどのようなデモグラフィックが有効だったのか?について探してみたいと思います。

tableauを使って散布図で可視化してみました。

 

 

 

 

 

 賛成・反対に分かれるデモグラフィックとして、転入数、転出数、婚姻、高齢化率が考えられそうです。

つまり1つの指標だけで影響を与えたと考えるのでは無く、複数の要因が相重なったと考えてみます。

決定木分析を用いて賛成・反対の理由を考える

反対率をy、デモグラフィックをxとする重回帰分析を行い、説明変数xを減らしたり増やしたりしながら、当てはまりが良く説明できるモデルを2つ作ってみました。

最後にそのモデルをベースに決定木分析(分かりやすいようyを「賛成・反対」にしたので分類木となる)を行い、賛成・反対に別れた要因を明らかにしたいと思います。

 1つ目は、反対率と最も相関係数が高かった婚姻(人口千対)です。さらに「区税収」と「一人あたり税収」を入れることで自由度調整済みの決定係数が0.7577となりました。

この3つの変数で決定木分析を行ったところ、婚姻数が多いか否かで二分

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2つ目のモデルの軸に高齢者率を選びました。さらに「転入数」と「転出数」を入れることで自由度調整済みの決定係数が0.7181となりました。

この3つの変数で決定木分析を行ったところ、以下のようになりました。

 
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 区民の約25%が高齢者に分類されると、漏れなく反対派が優勢になっています。こうして見て、ようやく「シルバー民主主義の勝利」と言えなくもありません。

おわりに

新参者 v.s. 古参者という構図で「大阪都構想」を捉えると、また違った報道になったのではないでしょうか

今回の分析からは、何かを変えるということに対する(年齢問わず?)古くから居る人間の心理的抵抗が思ったより高かったことが大阪都構想が敗れた要因だったのではないかと推察されます。あくまで「仮説」ですが。